宮崎夏次系著。なんだかとっても痛々しい。悪い夢で目覚めた朝とか、すり向けた膝で浴びるシャワーとか、だれもがちょっとだけ我慢していること、それでいて懐かしいことを少しだけ、爆発させてみました。
ある日、お父さんが「ポン」と音を立てて犬になった。せめて毛むくじゃらでキュートな見た目に変わってくれたらいいのに、見た目はそのままで、ネクタイやメガネをつけたまま。犬になってしまう瞬間に「大丈夫」といったからきっと大丈夫なのだろう。お父さんは確実にお父さんじゃなくなった。でも話しかけやすくなったから、僕は今のお父さんが好きだよ。
うちのお父さんは相変わらず人間だけれど、なんだか分かる気がする。
何にも心動かされない淋しさ。
夢の中では「あの子」と話せたのに、覚めたらやっぱり上手く話せない絶望。
早く何者かになりたくて、何にもなれない焦燥感。
「何がどうしてそう思うの?」と聞かれたら「別に…」と答えたくなる、痛いところを突いてきます。
設定はとてもシュール。ストーリーにも説得力があるわけではないのですが、深いところにじんと沁みわたるオムニバス。
第一話。いまわのきわで父が告白する。死んだと伝えられていた母親が生きている。彼女は整形をくりかえし、崩れた顔面は近所でも有名だった。彼女を電車で見つけた。声をかけようとしたその時、彼女の携帯から流行りの曲が流れた。大音量で。電話に出た彼女の受け答えもまた、大音量だった。なんで人前でそんな音楽流せるの?なんで恥ずかしげもなく大声で話すの?こんな女が僕の母親だったなんて。
一人、生きるのも精いっぱいで、好きなものは世の中にいっこでいい。
好きな女の子とは話したいけど、中途半端ならいらない、だから、「僕と結婚できないならもう話しかけないでください」。
第八話。彼女がお弁当に詰めている、二の腕の裏のようなたまごやきを見て僕は恋をした。でもそれは缶詰のたまごやきだった。彼女は缶切りがないと生きられないズボラ女だった。
恋した彼女の姿が幻想だったら?きっかけが嘘だったら、過ごした日々も嘘になってしまうのだろうか?彼女への愛は缶詰のたまごやきのように偽りなのだろうか?
絶望して投げてしまった缶切りを追いかけ、泥まみれになった彼女は再び缶詰をキリキリ開けるけれど、その姿はやっぱり愛おしい。
なんでそんなに焦ってるの?なんでそんなにすぐ傷つくの?なんで怒るの?
若いってそういうものよ~~~と一言で片づけてしまうのは、野暮です。
なんとなく、通ってきたような、通らなかったような。こんなにはならなかったけど、うん、ちょっと近いかも。そんな感じのお話です。
愛情の行き違いがさみしさを生むなら、新感覚・さみしさのこのマンガは愛の詰まったお話ばかりです。きっと。